胸が大きい女性のために。固定概念を外す『HEART CLOSET』のブランド作り

interview_heart-closet
Pocket

Dカップ以上の女性に特化したアパレルブランド『HEART CLOSET(ハート クローゼット)』を展開する株式会社122の代表を務める黒澤美寿希さんにインタビューさせていただきました。

黒澤さんご自身、胸が大きいことでなかなか自分に似合う洋服が見つけられなかったことが創業のきっかけに。同じ悩みを抱えている女性たちが、体型に合った服を着られる喜びを知ってもらうためにもD2Cモデルでコミュニケーションに重きを置いています。

今回は、胸が大きいことで生まれるペインを取り除くため、どのように商品を企画しコアファンを増やし続けているのかについてお聞きしました。

※ コロナの騒動を受けて、チャットにて取材させていただいています。

HEART CLOSET代表 黒澤美寿希さん
HEART CLOSET代表 黒澤美寿希さん

 

 

林田

『HEART CLOSET』ができたきっかけについて教えてください。
胸が大きいとどのような点で洋服選びが難しいのでしょうか? 黒澤さんご自身、お洒落が楽しめない時期もありましたか?

黒澤

結構長くありましたね!わたしは高校生の時から胸がGカップと大きかったので、セーラー服が体にあわずに太って見えたり、胸でウエスト引っ張られてお腹が見えてしまうなど、かなり困っていました。

私服でも悩みました。バストにあわせた大きいサイズを選んで着ると太って見えたり、肩幅や袖が大き過ぎてだらしなくみえたりしてしまったり…

反対に、ボディサイズに合わせると、バストがパンパンになってしまって洋服から溢れて、強調、露出していると認識されていました。実際に露出してしまったバストを指摘されることもあり、自分にあった洋服を選べずにいました。

林田

なるほど・・・そもそも入る洋服を見つけるのも大変で、似合う服を見つけるのはもっと難しいのですね。

黒澤

生活の基本である衣食住の中でも衣は「保温する・守る」といった体を保護する役目と、「その人のパーソナリティーや所属を識別する」ためのソーシャリティーの役目を持っていると思うのですが、それらの一切が本人の意思に反して、服としてワークしないところに問題があると思っています。

 

左が一般的なTシャツ。サイドにしわが入り、全体的に太ってみえる。
右がハートクローゼットのTシャツ。ボディラインに合っており、シルエットが綺麗。
出典:Twitter
林田

洋服作りはどのようなところからスタートしたのでしょうか?

黒澤

時期としては、2015年頃です。わたしが20代後半に仕事で責任者になり、フォーマルな服装を求められる場が多くなってきたタイミングです。

これまでのカジュアルで露出の多い服装ではごまかせなくなったため、世の中のアパレルブランドを見渡したところ、胸にあわせたサイズで洋服を作ってくれているところがなかったのです。それであれば「自分で作ってしまおう」と思いました。さらに調べてみると胸が大きい女性は増えていて成長市場だとわかったので事業に踏切ました。

林田

「体型に合う洋服がないなら自分で作ってしまおう」という発想がすごいです!

アパレル業はそこがスタートでしたか?

黒澤

そうですね。アパレルのアの字もわかってないまま始めました。”SKU”という言葉すら知りませんでした。

林田

イチからのスタートに加えて、通常と異なるパターンや縫製での難しさなどがあったのではないでしょうか?

黒澤

胸が大きい女性向けにどのようなパターンや縫製が良いのかを調べ、服作りに従事している色々な方にお会いしました。

まずは「大量生産、大量消費の時代に画一的ではない服作りをしたい」 という考えを理解していただく必要がありました。取引先には衣服生産にまつわる既存の固定概念から外れる洋服であることを理解していただくため、説明にかなり時間を割きました。

いまでもありますが、新規の取引先だと「胸が大きい女性向けです」とお伝えしてあるのに、「普通と違うから直しといたよ! 」と普通の胸が入らない寸法で上がって来ちゃう。そのため、長く取引をしてうちのパターンや指示書になれていただくようにしています。

林田

「普通と違うから直しといたよ! 」ですか。(笑)

黒澤

それは本当によくあるのでもう慣れました。(笑)

林田

通常アパレルでは、Cカップくらいが基準でしょうか?

黒澤

調査したところ、Bカップくらいですね。

日本の服のサイズを定義するJIS規格も長いこと変わってないです。

パターンの部分でも非常に面倒くさいことをやっています。うちはパリコレブランドに十数年従事していた技術者と服を開発していますが、既存の平面で引くパターンでは、曲線が多い女性の体(バスト・ウエスト・ヒップ)で起きる現象を解決しきれないことがあります。

そのため、立体裁断(ドレーピング)と呼ばれる、実際に人やトルソーに布を当てて、起こる現象を目視しながらパターンを作っています。グレーディング(サイズ展開)もCADで均等に一律ではいかず、いちいち全部作り直すのでスピードや効率はよくないです。

林田

なるほど…商品ページも、立体的に商品が確認できる画像や、アンダーバストとカップサイズからサイズが選べるようにされていて分かりやすいですね。

HEART CLOSETの商品ページ
HEART CLOSETの商品ページ
林田

デザインについてはいかがでしょうか? 開発中の新作を黒澤さんが着用し、Twitterにアップしていますが、ユーザーの反応やリクエストを商品づくりに活かしていることも多いのでしょうか?

黒澤

はい。 よくそうしていますよ!

「ここにもう一つボタンが欲しい」「肩にもっとゆとりが欲しい」「もっとウエスト絞って欲しい」など、ユーザーからのフィードバックはどんどん取り入れています。

林田

ユーザーさんからの熱い声も多いですね! 今はシーズンでどのくらいの商品を作っていますか?

黒澤

いまは月4,5型ほど発売しています。商品開発も胸が大きい女性のインサイトを鑑みると制約が多いので難易度が高く、常に10~15型くらいは並行開発してますが、よくできたアイテムだけ発売しています。中途半端商品は誰にも喜ばれないですからね。

林田

ハートクローゼットさんは綺麗めラインの服が多いですが、ユーザーからもっと別のジャンルの洋服を求められることもありますか? 例えば、ブランドが掲げている『生まれたボディラインを最大限に美しく魅せる』という点では、胸や谷間を強調した服を着るというのもひとつの手だと思います。

黒澤

そうですね。ありますよ。例えば、胸元を隠せる着脱胸当て付きのワンピースです。

出典:Twitter
出典:Twitter
林田

こんな2way初めてみました!

黒澤

まわりの目が気になるから胸を隠す。ではなく、胸を大胆に活かしたっていい。

問題はTPOにあわせられる洋服がなかったことなので、ご自身でどちらでも選択出来るようにしています。

林田

1枚のワンピースでON・OFFどちらにも着られるのはすごく良いですね! 理想的です。

黒澤

そう言っていただけると嬉しいです!

ずっとフォーカスしているのは他のブランドで代替えできない商品作りです。

「HEART CLOSETじゃなきゃいけないアイテムってなんだ? 」って常に考えています。

林田

黒澤さんは、SNSで積極的に情報発信されていますね。

新作の着用写真をアップするとファンからの反響が大きい反面、性的な目で見たコメントを返されるなど、いわゆる「クソリプ」もつきまとっているようです…どのようなメンタリティで対処しているのでしょうか?

黒澤

無ですね。 最初は整理がつかずになんでエロく見えるの?なんて傷ついてましたけど、今はその言葉をいちいち受け取らずにお返ししています。

あなたの性趣向をわたしに教えてくれなくていいですよ。って。

世論として胸が大きい=セックスアピールと捉える方がまだまだ多いですが、たまたま胸が大きいだけなんです。本人の意思を理解せずして、勝手に”セクシー”だと捉えているのは相手方です。それは「足が細いとセクシー」「筋肉がたくさんついているとセクシー」といった類いの個人の好みです。主観を持たれるのは全然構わないです。ただ、それを「自分の性の対象にはまりました! 」という報告されても、どうしようもないですよね。だから、意味がない発言だと思っています。

わたしがクソリプにお返事をする理由は明確に2つあって、ひとつは発言者にその発言はバッドマナーで悪い行為だと明確にNOの意思表示をしたいからです。何もいわなければ相手の勝手な解釈でOKとも取られてしまうので。

ふたつめが、HEART CLOSETのファンの方へ、ここにクソリプと戦っているやつもいるよ~!という一種のロールモデルであれたらいいなと。

林田

わかります…わざわざ直接的に言ってこないでくださいということですね。
ちなみに、Twitterが主戦場になった理由はどこにありますか?

黒澤

Twitterを選んだ理由は、バイラルしやすいところですね。

この事業は”大きい胸”を主題にしているので、常にセクシャルハラスメントや偏見と対峙しています。そして周囲に理解されづらい悩みです。だから、ユーザーは身近にいながらも声をあげられず、静かに潜っているんです。そういう方に対し、どうやってタッチポイントを作っていくかを考えると必然的にTwitterになります。

過去にTwitterでの反響が大きかった投稿
「綺麗に見える」「欲しい」といったコメントが多く寄せられている。
出典:Twitter
林田

最後に、今後のご予定について教えてください。

黒澤

『HEART CLOSET』はニッチマーケットということもあり、リピート率が高いのが強みです。今後も自社ECに強化していく予定で、 もっとUI、UXをよくするためにリニューアルを準備を進めています。(2020年4月末現在)

その他では、色々な下着ブランドさんからコラボのご相談をいただいています。下着屋さんは実売で女性の胸のサイズが大きくなっていること※を知っていて、商品開発から販売までのご相談いただくことが多いですね。

日本では、胸を”盛る”(大きく見せる)が流行っていましたが、そういうニーズだけではなくなりました。そのため、既存商品とは違った商品展開をする必要があります。胸が大きい女性に下着のペインがあることは明白なので、胸の大きな女性のインサイトとはなにかのマーケティングから商品企画、販売まで協力させていただいています。

林田

リニューアルも楽しみです。
本日はお忙しいところありがとうございました!

 

※出典:トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社「下着白書 vol.19」の調べでも、Dカップ以上の女性は2018年で53.1%と半数を占め、平成の30年間で約3倍になっている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000040640.html

関連リンク