”強み”を活かせば迷わない。紙+テクノロジーで攻める、ディノス・セシールのEC施策

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国内総合通販企業の最大手であるディノス・セシール。テレビ・カタログ通販の先進企業である同社のECは僅か3年半前まで、単なる受注ツールのひとつに過ぎなかった。

これを“売場”として大きく成長させたのが、同社のCECO(Chief E-Commerce Officer)を務める石川森生さんだ。同社の強みであるカタログ事業のノウハウを存分に生かしながら、デジタルを掛け合わせたハイブリッドな戦略を生み出す石川さんに話を聞いた。

石川森生(いしかわ・もりう)さんプロフィール

2008年 SBIホールディングス入社。EC向け決済サービスを展開するSBIベリトランスにて新規事業に従事した後、SBIナビ(現ナビプラス)の立ち上げを経験し、ファッションECサイト・マガシークのマーケティング担当に転じる。その後タイセイのBtoC事業を立ち上げ、子会社となるTUKURU代表に就任。2016年2月より、ディノス・セシールのCECO(Chief e-Commerce Officer)を務める。

受注ツールを“売場”に成長させるまで

石川さんがCECOに就任するまで、同社のEC機能はファッション、リビング、美容健康、食品などのカテゴリでカタログの事業部ごとに分散していた。これらを統合し、“一つの売場”として成立させることが、同社での石川さんの入社当初のミッションだった。

「それまでは、コンテンツもカタログの事業部ごとに分散していました。例えばクリスマスシーズンの場合、各事業部が独自でコンテンツを制作した結果、いくつものクリスマスコンテンツが出来上がる状況でした。」

石川さんはこれを大幅に改革。事業部を横断したコンテンツに、各事業部から該当商品を集約するフローに一変させた。このシフトによってUXを向上させただけでなく、コンテンツの質と量を飛躍的に伸ばし、効率化と売上に貢献した。

コンテンツの資産化で、効率・売上ともにアップ

「理想的なのは、サイトに提案がたくさんあること。“本当は違うものを買いに来たのに、つい読んでしまう”って状態を作り出すには、ひたすらコンテンツを作り、タッチポイントを増やすしかありません。

カタログは毎年同じタイミングで同じコンテンツを作らざるを得ませんが、webならコンテンツを資産化できる。URLを固定しSEOを上げながら“このコンテンツの商品を入れ替えて、全て10%OFFにしよう”と、あっという間にセールコンテンツを作ることもできる。
毎年やればやるだけ強くなるんです。今では相当な数のコンテンツがストックされているため、新規で作るページ自体は年々減らすことができ、相当効率化できています」

webと全く異なるカタログの制作スキームを網羅しながら運用フローに落とし込み、“ECは上手く使えば、きちんと売上を作れる売場である”と社内が認識するまでに、およそ2年半を要したという。

ハッピーハロウィン特集 / 固定化する前提でディレクトリ設計されている

誰かがやらねば。“宙ぶらりん”の仕事をかき集める

ECで計画的に売上目標を達成できるようになり、2018年7月、石川さんは次なるステップに踏み出した。管理業務から離れ、足元の数字だけでなく“未来への投資”に着手することになったのだ。

「“評価には紐づかないけど、本当はやらなければいけないこと”って、実は結構ありますよね。例えば既存のアプリにお客様が喜ぶ新機能を搭載するとか、将来的に価値はあるが、今期の売上への影響までは読めない、誰も手をつけないもの。

現在は、ディノス・セシールのマーケティングとECを含め8部署を横断し、そういった宙に浮いてしまう業務を引き取っています。プロジェクト単位で実現に必要なメンバーをアサインし、うまくいけば現場の方たちのルーティンに落とせるようにしています」

ECユーザーを反応させた秘策とは

数々のプロジェクトの中でもユニークな結果が見られたのが、日本郵便が主催する『第33回 日本DM大賞』でグランプリを受賞した『パーソナライズDM』の施策だ。
きっかけは、web顧客に対する課題
「webで獲得した新規顧客のカタログに対する親和性やレスポンスは、我々がこれまで長年培ってきた、カタログ顧客のそれとは明らかに違いました。

例えば、楽天など外部のモールで商品を購入してくださったお客様は、どの会社から買ったか憶えていないことも。その方にカタログを届けても、“何だっけ?”となる。つまり新規の入り口と、リテンションの方法がねじれてしまっているんです。

とはいえ紙を使わなくては我々の強みが発揮できなくなり、ベースのビジネスモデルが崩れてしまう。そこで、紙の効きが悪いお客様に“おもしろい”と思ってもらい、レスポンスが上げられれば課題は解決すると考えました。
ちゃんと反応してくれる使い方が見つかりさえすれば、これまでのカタログのノウハウが活用できますから」

売り上げ規模とノウハウの蓄積が圧倒的に大きいカタログに、web顧客と施策を最適化した形だ。

『パーソナライズDM』って?

初めの取り組みは、EC顧客がカートに入れたまま購入しなかった商品を、最短24時間でハガキDMに印刷し送付するというもの。この施策によって、DMを送らなかった顧客群とのCV率の差は約20%も開いたという。

続いては、対象を顧客が購入した衣料品に絞り、A5サイズのカタログを送付。ファッションAIが、Instagramから顧客が購入した商品に類似したアイテムのコーディネート写真を抽出して掲載する、カタログにデジタルのテクノロジーを掛け合わせた試みだ。すると、紙が効きにくいと思われていたweb顧客のレスポンスが、10%もアップした。

「ECを訪れたお客様が掲載商品ではなく、全く別のカテゴリの商品を買ってくださるケースも多く見られました。我々としては、そのために様々なコンテンツを整備しているので、これでいいんです。“ディノス見てみよう”と思ってもらえれば、ミッションはクリア」

『第33回 日本DM大賞』でグランプリを受賞した『パーソナライズDM』

クリエイティブのABテストも実施

さらに、送付先を『新規webユーザー』と『既存顧客』に分け、AIで生成したクリエイティブと、カタログ制作チームによるクリエイティブのそれぞれを出し分けるテストも実施した。

「不思議なことに、既存のカタログ顧客にAIで制作したクリエイティブを送っても、全く刺さりませんでした。が、カタログチームのクリエイティブなら、提案したアイテムをそのまま購入してくださる。逆に、web顧客にはそれほど刺さりませんでした。
webユーザーをカタログユーザーに変化させるためのブリッジツールとして何とかならないかと思っていたので、学びは大きいです。どうすれば反応してもらえるかが、何となく見えてきました」

引き続き様々なシナリオで、検証が続いているという。

ディノス・セシールが描く、新たな顧客体験

DM、メルマガ、カタログ、LINEなど、数あるチャネルの中でも、今後注力していきたいのはアプリの活用だ。

「紙もwebも、カスタマージャーニーに含まれている一つの要素でしかありません。一つ一つ切り出してもあまり意味がなく、本来は我々が持ってる全チャネルを横串にして、CRMの中に埋めていく必要があるんです。

これまでオンライン上のログの分析はもう20年間行われていますが、これまで分析できていないのが、オフラインのデータ。中でもカタログの閲覧データが取れれば、シナリオ設計は無限になる。リーチコスト順にCRMシナリオをアウトプットしていき、一番コストはかかるが高いレスポンスが期待できるカタログを最後の部分でしっかり自動化できれば、我々のCRMは完成します」

カタログ×スマホで築く、WIN-WINな関係

CRMを完成形に近づけるために、石川さんが新たに取り組んでいることは何なのか。

「我々がやろうとすることはシンプルです。カタログを読むときにスマホを絡める体験が設計できれば、もしかしたらログの収集ができるかもしれない。するとCRMの回り方も全く変わり、顧客にどのタイミングで、何のチャネルを差し込めばいいかも見えてくる。

検討しているのは、価格情報と在庫情報が確認できる機能。カタログには上代しか載っていませんが、裏側ではキャンペーンが走っていたり、ロイヤリティによって割引があったりすることがほとんど。

今は価格も在庫も、お電話やサイト内検索など、何らかお客様にアクションしていただいるので、この状況を解決できるツールを、画像認識などを活用して搭載できないかと検証しています。お客様が喜んでくれるかなと思っていますが、使われなかったら刺さらなかったってことでしょうね(笑)」と、爽やかな笑顔を見せた。

課題や成長の種を見つけては、スマートに斬り込んでいく石川さんの姿は、まるで現代の侍のようだ。戦略や戦術に迷いが見られないのは、「カタログ」というブレない強みを軸にしているからではないか。打ち手に迷ったときは、“自分たちの強みを最大限に活かせるか”という視点に立つことで、ヒントが見つかるのかもしれない。

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